スウェーデンの中央銀行(日本でいう日銀)で受けています.
Sveriges Riksbank
= 直訳すると,スウェーデン王立銀行.
New Keynesianのマクロモデルをお勉強する,
ということから始まり,その拡張と,
今は,インフレーション・ターゲットの権威である,
Lars E.O. Svenssonから,
インフレ・ターゲットの講義を受けています.
(インフレ・ターゲットについては,
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%83%E3%83%88
)
ついこないだ,
日銀が1%のインフレ目標を
公言したのは記憶に新しいところです.
90年代にカナダに始まったインフレ目標ですが,
先進国中,日米は,ともにインフレ目標の導入に懐疑的で,
今年になるまでその導入をしてきませんでした.
日銀が動いたのは,
米国のFRBがこの1月にインフレ目標を設定した直後.
ギリシャ不安のあおりをうけて,
経済が下方向にぶれるのを,
インフレ目標を設定することで,
下支えする意味合いがあったのだと思います.
円高の問題で,国内から批判が
高まっていたということも理由の一つでしょう.
そのおかげで,一次は,対ドル,対ユーロで円安になり,
日経平均株価も1万円を超えましたが,
ギリシャの不透明な政治状況のため,
再び円高,株安の方向へベクトルが触れているのが現在.
日銀は,再び国債等を買って追加緩和するか,
そのタイミングを見計らっているようです.
一方,欧州メディアは,
ギリシャが果たしてユーロから抜けるのか,
また抜けた場合,ギリシャやドイツへの影響はどういったものか,
といった話でもちきりです.
話を戻します.
授業で一番面白かったのは,
スウェーデンのフィリップス・カーブは
長期的にみて右下がりなのではないか,
という提議をLarsが最近していること.
ミルトン・フリードマンなどの
マネタリストによれば,
長期的にフィリップス・カーブは,
自然失業率の値のところで垂直になるはずです.
(参考:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%B9%E6%9B%B2%E7%B7%9A
)
Larsも同様なことを過去主張してきました.
ところが,
スウェーデンの95-2010の値を見てみると,
どうも右下がりになっている,
というのが彼の主張です.
(ちなみに日本のフィリップスカーブは,
右下がりから水平になってきています.
つまり,消費者物価上昇率(インフレ率)に関しては,
ゼロからマイナス(デフレ)あたりで推移しつつ,
失業率が,過去と比べて5%あたりで高止まりしている
という特徴があります.
http://www.osaka-ue.ac.jp/zemi/Ito/%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB%E5%88%86%E6%9E%9010/%E6%B0%B4%E5%B9%B3%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%B9%E6%9B%B2%E7%B7%9A.pdf
余談ですが,下のペーパーは,経済学徒の間で有名な
「日本のフィリップス曲線は,日本に似ている」
という論文です.
http://qed.econ.queensu.ca/working_papers/papers/qed_wp_1083.pdf
)
同じペーパーのなかで,
スウェーデンのインフレ期待は,
(人々が将来のインフレ率がどれぐらいに
なるかを予想したもの)
だいたい2%あたりで推移してきているのに対し,
実際のインフレ率は,1%あたりで推移してきた,
ということも述べています.
前者に関しては,スウェーデンは,
2%のインフレ目標を95年に導入しているので,
だいたい市場の予想が,
インフレ期待通りに推移していることを示しているのですが,
実際のインフレ率は,1%あたりなので,
右下がりのフィリップス・カーブに従えば,
失業率が無駄に高くなっているという結論に行き着くわけです.
つまり,
仮に上の議論に間違いがなければ,
スウェーデンは,ここ10年,
インフレ目標を2%にしたがゆえ,
無駄に高い失業率を維持してきたということが言えます.
これは,Riksbankにとって非常に都合の悪い結論です.
インフレ目標を導入し,
スウェーデン経済の安定に寄与してきたことは,
彼らが胸をはって主張するところですが,
一方で,失業率が高めになっていたということが
仮に事実ならば,国民の反発を買うでしょう.
今は,上の議論に間違いがないか,
いろいろと検証がされているところだそうです.
ところで,日銀がインフレ・ターゲットに踏み出せないのは,
「物価の安定」について述べた日銀法の反するためだ,
という主張もあるのですが,これに関して,
スウェーデンも同じような問題に直面しているようで,
Larsによれば,Riksbankの目的について述べた,
Government bill (1997/98:40, p. 1):
"without prejudice to the objective of price stability, [the
Riksbank] should support the objectives of general economic
policy with the purpose to achieving sustainable growth and
high employment.”
のうち,
without prejudice to the objective of price stability
と
achieving [...] high employment
の部分に関しては,
目的に反しているのではないか,と主張しています.
もっとも何をもって「物価の安定」とするかは,
議論のわかれるところかもしれませんが.
日本経済は,長期的に見て,
インフレ目標の効果はあるのでしょうか.
またある場合,それはどういった形で
現れてくるのでしょうか.
上の1本目のペーパーでも若干触れられていますが,
日本は,マクロ議論だけでなく,
労働市場の議論がもっと活発化していいと思います.
高い失業率,
契約社員の悪い雇用条件,
女性の働きにくさ,
結婚市場への影響.
そういうものを精査して政策に活かしていかないと,
いつまでたっても,
この状況から抜け出せないのではないか.
過去,日本の労働経済学は,
マルクス経済学の伝統を継承してきたように思えますが,
それらを超えてもっと現実的,政策的な話をしていかないと,
労働市場を改善させる方向にいかないのではないか.
と,労働経済学に関しては,ド素人ですが,
そっちの研究のかなり進んだスウェーデンにいながら思います.
日本の経済学の中で力があると思うのは,
ゲーム理論や,ミクロ,マクロ,
そして国際経済,新経済地理学の理論分野ですが,
労働経済学のような応用系が花形になっていかないものか.
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